【Ver0.0:2005-02-19版】

この本の成り立ち
 研究者のホームページはなぜ増えないのだろう? 自分の研究の過程や成果を伝えるホームページを個人で公開する研究者はなぜ増えないのだろう? この疑問からこの本は始まっている。
 私がインターネットに親しむようになったのは1997年。研究者のホームページは、数え上げきれるくらいしかなかった。その当時に比べれば、確かに研究者のホームページは増えたし、いまも増え続けている。だが、その増え方は爆発的なものではない。また増えたもののなかには、ゼミ紹介や経歴紹介にとどまるホームページも少なくない。つまり、研究者一人ひとりが、自分の研究の過程や成果を自分のホームページを通して伝えるまでにはいたっていない。
 これはなぜだろう? さまざまな理由が考えられている。そのなかでも研究者自身に説得力があるのは、研究の過程や成果を自分のホームページで伝えるには、いまはインセンティブがない、とする考え方だろう。自分のホームページで研究の過程や成果を発信するには、かけるコストにみあう見返りがほしい。だが、いまはインセンティブが働いていない。だから、研究者個々人が自分のホームページを公開する機運が盛り上がらないというわけだ。
 確かに、これは一面の真理を衝いている。だが、インセンティブだけで説明できるのだろうか? あるいは説明していいのだろうか? 私は別の可能性を考える。そもそもインセンティブを論じる以前に、もっと単純な問題が、ここにはあるのではないか? と。
 それは、反感を恐れずにいえば、研究者の無知と誤解である。インセンティブを論じる以前に、自分のホームページを持つということ、そこで自分の研究の過程や成果を公開するということが具体的に想像できない研究者も多いのではないだろうか。なぜなら、「自分の研究の過程や成果を伝えるホームページ」に関する手引きは実に少ないからだ。これは別に研究という世界に限った話ではない。ホームページに関する手引きといえば、どのように公開するのかを解説するものばかりである。ホームページでなにを公開するのかを解説する手引きはまず見当たらない。つまり、とるべき方法は述べられていても、あるべき内容は述べられていないのである。
 ただでさえ未知の代物であるホームページを前に、技術的な方法論しか耳に入ってこない状況に置かれれば、本来知るべきことがらにいやおうなく無知にされれば、そこには誤解が生じるスキがある。なにもよくわからないまま、インセンティブの議論をクローズアップしてとらえ、研究の過程や成果を自分のホームページで伝えることに否定的なってしまうのではないか?
 これが、「研究者のホームページはなぜ増えないのだろう?」という冒頭の疑問に対して、私がいま持っている答えである。インセンティブを論じる前に、まずは「なにを」を広く伝えよう、研究者のホームページにはなにがあればよいのかを伝えよう、研究の過程や成果を伝えるにはなにが必要なのかを伝えよう、実例に基づいて多様な選択肢を紹介しよう、そしてその先にある可能性を示唆しよう……。こうして書かれたのが、この本である。
この本の構成
 この本は、4部で構成されている。第1部では、ホームページを公開する前に知っておいたほうがよいことを述べている。特にこの本を読んでどのように考えるにせよ、判断をするうえで知っておいたほうがよいことがまとめられている。この「まえがき」の内容をより広げたものといえるだろう。
 第2部では、自分の研究をホームページで伝えるならば、なにを公開すればよいのか、具体的な先行例を引きながら紹介している。この本の中心的な内容といえるだろう。
 第3部では、第2部を受けて、本格的に自分の研究をホームページで伝える場合に気をつけたいことがらを説明している。第2部の補足であると同時に応用といえるだろう。
 第4部では、第2部、第3部で引いたものを含め、さまざまな先行事例を紹介する。この本全体に対する資料集といえるだろう。
 いちおう順番はあるが、読者の方々は頭ら読み進めていただいてもよいし、興味のあるところから拾い読みしていただいてもよい。
この本が対象とする読者
 この本は

  1. 大学での教育と研究に取り組む研究者になろうとする大学院生
  2. 大学で教育と研究に、すでに取り組んでいる研究者
  3. 大学での教育と研究を、まもなく終えようとしている研究者

が手にとり、読むものとして書かれている。もちろん、ここにあてはまらない方が読んでもよい。企業や団体、図書館や文書館、博物館や美術館で教育や研究に関わる方々が読んでもよい。あるいは報道や調査に関わる方々が読んでもよい。むしろ、日々のくらしでは、大学と接点を持つことが少ない方々が、この本を手にすることがあれば、それは本当にうれしいことだ。この本が、さまざまな方と出会えることを願いたい。